2018.10.26

月夜の小話 第13話

左捻り込み

月夜の小話第13話は、戦闘機乗りなら誰もが憧れる左捻り込みのお話です。
今となっては坂井三郎氏もご逝去され、謎に包まれたその技の正体を知る事は永遠にできないのかもしれません。
それでも、過去の文献や資料から、その一端を推測することはできると思います。
これまでも、その謎を解き明かすべく活発な議論がなされてきました。
私も興味を持って文献(「零戦の秘術」加藤 寛一郎著など)を読んでみましたが、難しすぎてよく判りませんでした。
ですから、私には未だにその正体は謎のままです。

予めお断りしておきますが、ここに書いてある内容は未検証で推測を含む内容が含まれています。
ここに書かれていることが真実である保証は無いのでそのつもりで。


さて、数年前のことになりますが、とある掲示板で興味を引く議論がありました。
それはズバリ!

「左捻り込みって、バレルロールのことじゃね?」

最初は突拍子も無い話だと思いましたが、議論を読んでいくとなるほどと思う部分もあります。
私は読んでいるだけでしたが、今では左捻り込み=バレルロール説を私も信じています。

議論の内容をかいつまんでみると、

・技の状況や操作内容などからバレルロールと思われる節がある
・坂井三郎氏が模型で説明する動画ではバレルロールっぽい説明だ
・坂井三郎氏が空戦機動の話をする中で、バレルロールという単語が出てこない

ということでした。

想像するに、当時はバレルロールという単語が日本には無かった(伝わってなかった)ので、
左捻り込みと表現していたのではないか・・・と言ったところでしょうか?
なお、私は文献を隅々まで当たって検証した訳では無いので、勘違いや誤りがあるかもしれませんが、
議論の内容は概ねそのような内容でした。
しかし、今では真実を確認する術が無く、左捻り込みは永遠の謎となっています。

ここから先は、左捻り込みがバレルロールであったと仮定したお話です。


私がAHWBで戦っていたとき、主にバレルロールを愛用していました。
あえて低い高度で敵を誘い、相手が過速で突っ込んできたところをバレルロールで躱し、
相手がオーバーシュートした所で逆転するという戦法です。
必然的にいつもバレルロールに頼った戦いであり、仮にバレルロールが左捻り込みであるならば、
坂井三郎氏が左捻り込みを実戦では一度も使わなかったという故事と真逆の事をしていたことになります。(笑)

それから時が過ぎ、AHで飛ぶ事も減り、別の遊びに惚けていた時のことです。
風呂に入りながら「左捻り込みがバレルロールではないかという議論があったなぁ・・・」と回想していると、唐突に思い出した事があります。

「そう言えば、俺もみそをすってたな」

知らない人は「みそって何やねん?」と思うかもしれませんね。
実は「零戦の秘術」に記載されていた左捻り込みの説明に、気になる一節がありました。

「みそをする」

左捻り込みの途中であえて旋回を緩める操作らしく、加藤 寛一郎先生はそこに奥深い秘術が隠されているのではないかと
考えておられたようです。
この本を読んだとき、旋回を緩めるのがなぜ良い結果を生み出すのか、不思議に思いながら私も憧れていました。

私がバレルロールをするとき、タイミングをみて思いっきり操縦桿を引き、最大Gで旋回に入ります。
限界までその状態を続け、相手がオーバーシュートしたところで反撃に出ます。
ですから、通常は途中で旋回を緩めることはありません。
途中で旋回を緩めれば、相手を押し出すことができず、チャンスをフイにする恐れがあるからです。
しかし、ごく希に無意識に旋回を緩める事がありました。
今にして思えば、それが「みそをする」だったのかもしれません。

どんな時に旋回を緩めていたかと言えば、バレルロールの終盤、もう少しで相手がオーバーシュートしてくれる時です。
ちょうど相手が真横を通り過ぎるタイミングでしょうか。
それも、バレルの上の頂点に居る時です。

・・・下手な絵で悪かったな!
ここは我慢してください。

図では右下から左上へバレルロールしています。
敵機は徐々に押し出され、最後には横に並びます。
この時、自機がバレルの上頂点で背面飛行をしています。(赤丸の部分)
敵機は真下でこちらを追い抜こうとしています。
ここでバレルの頂点から降下すると、加速して相手の横、もしくは前に出てしまう恐れがあります。
それではバレルロールで逆転することはできません。
ですから背面飛行のまま、ちょっとだけ「我慢」します。
要するに相手を見ながら背面飛行で一瞬タメを作ることで、相手を押し出していました。

この時の操作は、バレルロールで最大Gをかけて旋回している途中、この一瞬だけ操縦桿を押し込んで背面飛行を維持します。
つまり、旋回を緩めているのです。
もしも左捻り込みがバレルロールであるなら、これが「みそをする」ことなのかもしれません。
私はバレルロールの終盤に1回だけ行いますが、坂井三郎氏はバレルロールでバレルの上頂点にさしかかる度にみそをすって、
さらに相手をオーバーシュートさせやすくしていたのかもしれません。

私はこの「我慢」(私は「我慢」と表現していました)を、無意識に行っていました。
自機と敵機の位置関係を把握して、ここで降りたら相手を押し出せないと感じたとき、自然と腕が操縦桿を押し込んで背面飛行するのです。
この操作をした時は、ほぼ間違いなく相手の真後ろ絶好のポジションに着くことができました。
この操作はパターンとして毎回行うのではなく、相互の位置関係を見ながら都度判断します。
バレルの真下から相手を見上げる状態であれば、このような操作はしません。

技の一部として意識的に行うのではなく、「タイミング的にもう少しだけ我慢」と条件反射的に行っていました。


今回は日本の戦闘機乗りなら誰もが憧れる左捻り込みについて、私の気がついた点を書き留めました。
「左捻り込みはバレルロールである」という仮説を前提にしていますので、ひょっとしたら根本から間違っている可能性もあります。
ただ、「みそをする」という操作が、ひょっとすると相手を押し出すためのもう一押しの操作である可能性に気がついたので、
記憶が薄れる前に書き留めておこうと思いました。

要するに風呂場で思い出した内容を、ちょっと忘れないように書いておこうってことですね。(笑)